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院長コラム

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久しぶりに血栓回収術を行いました。

 以前から月1回程度、救急病院へ当直に行って居ます。

最近はコロナウイルスの影響で、各地の病院や診療所で受診患者数が減っていますが、怪我や病気など本当に治療が必要な時は、受診は絶対に必要ですし、医療機関では一般患者様とコロナ感染が疑われる患者様は分けていますので、受診をした事で感染する確率はかなり低いと思われます。

まあ、発熱や咳嗽で脳外科を受診される患者様は居ませんので、脳外科受診で感染する可能性はほぼないとは思われますが。

ウイルス

それはさておき、先日当直していた早朝に98歳女性の救急受け入れ依頼の連絡が入りました。

いつもはキチンと歩いていて、会話もキチンとしている女性が深夜になって会話が成り立たなくなったとの事でした。

発熱は無い様でしたが、高齢者の場合は肺炎などで発熱が遅れて出てくる事もあるので、「肺炎での意識状態の悪化だったら困るなぁ。。。でも脳梗塞も完全には否定できないしなぁ。。。」と思いながら受ける事としました。

ちなみに、夜間は「脳神経外科輪番」ですので、肺炎含めて内科疾患疑いを積極的に受ける必要はありません。


来院時にはやはり発熱はなく、手足の麻痺もないのですが、発語なく、言語理解もほぼ出来ないので、失語症が出ていると考えられました。

麻痺がないのが気にはなりましたが、明らかな失語なので、脳梗塞の可能性が高いと考え、MRIを行ったところ、左脳の2/3程度を栄養している中大脳動脈が閉塞していました。
しかし、脳梗塞は現状ではほとんど出ていませんでした。

悩む家族
98歳という超高齢者ではあるのですが、年齢を考えなければ、血管内手術による血栓回収術の絶対適応とも言える様な状態です。

元々の生活レベルも良く、このまま血栓回収術をしなければ、少なくとも失語症は残ると思われます。
今後麻痺が出てくる可能性も無いとは言えません。

超高齢者である事を考えれば、一旦脳梗塞が出て症状が確定してしまえば、リハビリによる回復はなかなか厳しいものとなります。

反対に、手術も合併症の危険性もあり、高齢者であれば危険性も若い人よりは高いと思われますので、手術をする事で逆に致死的になる可能性もゼロではないです。

迷いもありながら、ご家族に話をしたのですが、ご家族もかなりどうして良いか迷われて決めかねて居られました。

他の手術であれば、じっくり考えて頂く時間はあるのですが、この手術に関しては一分一秒でも早く再開通させることが今後の予後を決めてしまいますので、いつまでも待つことは出来ません。

「余り無理をしないという事で、手術しませんか?」 と、ご家族に話をして血栓回収術を施行する事としました。

手術自体は、やはり超高齢者である為動脈硬化が強く、かなりカテーテルが上がりにくかったのですが、何とか再開通をさせる事が出来ました。

この手術含めて血管内治療はもう1年以上行って居なかったので、手が動くか心配だったのですが、特に問題なく終える事が出来ました。

術直後には、術前よりは覚醒状態は改善していましたので、再開通の効果は出ているかと思われました。
MRIの再検査の結果を見ないと判りませんが、再開通しなかった場合よりは明かに脳梗塞の範囲は少なく済んだと思います。
やはり高齢者ですので、脳へ血が足らなかった状態が続いた影響からの回復には時間がかかると思われます。


脳血栓回収術に関して

・血栓回収術とは血管の中からカテーテルを用いて、動脈を閉塞させている血栓を取り除いてしまう手術の事です。

・脳の太い血管を閉塞させる様な血栓の原因としては、心臓からの血栓、特に心房細動からの血栓が多いです。
いったん脳の主要血管の閉塞を起こすと、血栓回収術を行っても脳梗塞を全くなくする事は出来ませんので、元通りになる事は期待できません。
やはり、血栓症予防(ワーファリンやイグザレルトなどの抗凝固剤の内服)で、脳動脈の閉塞を起こさない事が重要です。

・不幸にして起こってしまった場合は、出来るだけ早期に血管内治療が出来る施設を受診(通常は救急車での搬送)をする必要があります。
時間が経過すればする程、回復のレベルが悪くなると言われています。

・広島市では救急隊は兵庫医大の吉村教授が作られた、JUST Scoreという物を用いて、脳卒中患者の搬送先の選定を行って居ますので、血栓回収術が必要な患者様は施行できる病院に搬送されるシステムになっています。(ただ、通常は脳の主要血管の閉塞患者様は赤に分類されるはずなのですが、今回の患者様は運動麻痺がなかった為か、可能性が高くはない黄色判定になったそうです。)

・これまでの経験から、脳主要血管閉塞に対して血栓回収術を行い、再開通を達成できた場合の患者様の回復に関しては、直後から動かなかった腕や足が動き始めたり、数日後には自分で食事をしていたりと、再開通できなかった場合よりは良好な経過を取っている様に思います。


いつも講演会では言って居るのですが、言語障害や運動麻痺など脳卒中が疑われる症状が出た場合は、様子を見る事なく、直ぐに脳神経外科や脳神経内科が常勤で居る病院を受診して頂きたいと思います。

血栓回収術正面像
正面から見た画像です。矢印部の血管が閉塞していましたが、施行後は写っています。

血栓回収術。側面像
側面から見た画像です。丸印内の血管がありませんが、施行後は写っています。

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